スプリングを伸ばすのではなく、スプリングをコントロールする

―ピラティスの「バネ」から考えるControl
ピラティスの器具を長く使っていると、私はいつも「スプリング」というものを面白いと思います。
リフォーマー、キャデラック、チェア、ペディプル……。
ピラティスの器具には、さまざまなところにスプリングが使われています。
私たちは普段、
「今日は赤を1本」
「このエクササイズではこのスプリング」
などと当たり前のように使っています。
でも、そもそもこのスプリングとは何なのでしょう。
単に筋肉に「重さ」をかけるためのものなのでしょうか。
私は、それだけではないと思っています。
むしろスプリングを理解していくと、ピラティスのControlという考え方そのものが見えてくるのではないかと思うのです。

同じスプリングでも、負荷は一定ではない
まず、とても面白いのがここです。
ダンベルであれば、5kgのダンベルの質量は、動作途中で10kgになったり3kgになったりするわけではありません。
ところがスプリングは違います。
引張スプリングには、まずコイルを開き始めるために必要なinitial tension(初期張力)があり、そこからさらに伸ばしていくと、基本的には伸びた距離に応じて必要な力が増えていきます。
工学的にも、引張スプリングは「初期張力+スプリングレート×伸び」で考えることができます。
実際、Merrithewはピラティス用スプリングの数値を公表しています。
たとえば100% Reformer Springの場合、
初期張力は約6.0〜7.5 lb。
そこから1インチ伸びるごとに約1.25 lbずつ抵抗が増えるとされています。
メーカー自身が、12インチ伸ばした場合には、
6.0+(1.25×12)=約21 lb
という計算例まで示しています。
つまり、
「赤だから何kg」
という考え方だけでは、スプリングを説明できません。
同じ赤でも、
少し伸ばしているときと、
大きく伸ばしたときでは、
身体が受けている力が違うのです。
ですから「長く伸ばすほどスプリングの強度が上がる」というより、より正確には、
伸ばす距離が大きくなるほど、スプリングから受ける抵抗が増えていく
ということです。
ここがまず、ウェイトトレーニングとは違うスプリングの面白さだと思います。

大きく動くということは、より大きな力をコントロールすることでもある
そう考えると、ピラティスの「大きく動く」ということの見方も変わります。
ただRange of Motionを大きくすればいいのではありません。
スプリングをより遠くまで伸ばせば、それだけ戻ろうとする力も大きくなる。
その力が大きくなっていく中で、
背骨はどうなっているのか。
骨盤はどうなっているのか。
腕や脚は、どちらへ向かっているのか。
左右差は出ていないか。
そして、その強くなっていく力の中でも、身体を組織したまま動けるのか。
ここまでがピラティスなのだと思います。
なお、ここは少し言葉を正確にしておきたいところです。
スプリングを長く伸ばすほど「物理的に不安定になる」とは一概には言えません。
伸びるほど力は増しますが、スプリング自体のスプリングレートが突然不安定になるわけではありません。
ただし、人間の運動として考えれば、より大きくなった力に対して、方向、速度、身体の軸、左右差などを維持する要求は高くなります。
だから私たちは、より強くControlを求められる。
私はそう捉えています。
スプリングは「色」だけでは決まらない
さらに興味深いのは、スプリングそのものにも性格があるということです。
自然長。
ワイヤーの太さ。
コイルの直径。
巻き数。
材質。
初期張力。
そして、どのような表面処理がされているのか。
これらによって、スプリングの特性は変わります。
Balanced Bodyの新しいDURO Springは、従来より太いワイヤーと大きなコイル径を採用しながら、Signature Springと似た抵抗感を維持し、より大きな伸長や高頻度使用に耐えるよう設計されています。
つまりメーカーは、
「何色だから何kg」
という程度でスプリングを作っているわけではありません。
どう伸びて、どう戻り、どのようなfeelになるのか。
そのために、構造そのものを設計しているのです。

クラシカルとコンテンポラリーで、なぜこんなに感覚が違うのか
私はクラシカルとコンテンポラリー、両方の器具を使っています。
その中でずっと興味を持っているのが、スプリングの感覚の違いです。
クラシカルのスプリングを大きく引っ張ると、ときに私は、
「びろーん」
というような伸びるような感覚を受けます。
そして、ときには本当に、
「びろろん」
と音まで鳴る。
身体の使い方が乱れると、スプリングも揺れる。
戻りを急げば、その反応がそのまま返ってくる。
まっすぐ引かなければ、スプリングの動きにもそれが現れる。
私は長い間、この違いを身体で感じてきました。
そして今回、メーカー資料を調べてみると、とても興味深いことが分かりました。

クラシカルでは、あえて「メッキしない」スプリングもある
Balanced Bodyのクラシカルライン、Contrologyは、スプリングをunplated=メッキしていないと明記しています。
理由は、1970年代初頭のオリジナル器具の歴史的な姿や機能をできるだけ忠実に再現するためです。
さらにContrologyは、単に形を再現しているだけではなく、
Jay GrimesやKaren Frischmannらと開発し、オリジナルのスプリングが持っていた独特の、
“muddy feel”
そして、
“unique sound”
まで再現するよう設計していると説明しています。
これは私には、とても興味深いことでした。
私がクラシカルのスプリングで感じていた、
「びろんとする」
「音がする」
「揺れが直接返ってくる」
という感覚を、単なる古い器具の欠点として考える必要はないからです。
少なくともContrologyは、そのfeelとsoundそのものを、クラシカルピラティスの体験を構成するものとして残そうとしているのです。メーカーのサポートページでも、「original Pilates apparatusのauthentic feel, function and sound」を保つためのスプリングだと説明しています。

一方、コンテンポラリーでは表面処理も進化している
たとえばMerrithewのスプリングは、高品質のmusic wireを使用し、熱処理によって応力を除いたあと、ニッケルメッキされています。
メーカーが説明している主な目的は、スプリング寿命を延ばし、基材を保護し、張力の品質を長期間維持することです。
ですから、私が触って感じている、あの表面の「ツルッ」としたものは、少なくともMerrithewの場合は実際に表面処理されたものです。
Gratzにも、通常品とは別にNickel Plated Reformer Springsがあり、こちらは特に錆を防ぎ、高湿度の環境で使用する目的だと説明されています。
ただし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。
「ニッケルメッキされているからスプリングが安定する」とまでは、現在確認できる資料からは言えません。
メッキの主目的としてメーカーが説明しているのは、耐久性、防錆、スプリング寿命、張力の品質維持などです。
そしてクラシカルとコンテンポラリーでは、表面処理だけではなく、
ワイヤーの太さ、
コイル径、
長さ、
巻き数、
初期張力、
取り付け方法
なども違います。
ですから、私が感じている
「コンテンポラリーの方が伸び方が滑らかで、戻りも制御しやすい」
という違いを、表面処理だけの効果だとは断定できません。
これは今後、実際に測ってみたいところです。
では、あの「びろろん」という音は何なのか
金属製のコイルスプリングそのものにも質量があります。
そのため、急激な力が加わるとスプリング自身が振動することがあります。コイルスプリングには固有振動があり、工学ではこうした振動現象が研究されています。
ですから、
「びろろん」
という音が聞こえること自体は不思議ではありません。
ただし、それをすべて
「身体のコントロールが悪かったから」
と考えるのも正しくありません。
スプリングそのものの振動、フック、取り付け部分、器具全体の共振など、さまざまな要因が関係します。
それでも、実際の指導では面白いことがあります。
急に引っ張る。
急に戻す。
左右の力が揃っていない。
軌道が揺れる。
そうすると、スプリングの動きや音も変わる。
だから私は、その音や揺れも、
「今、自分がどう動いたのか」
を知る一つの情報として受け取っています。

スプリングが、自分の動きを教えてくれる
ここが、私がクラシカルピラティスを面白いと思うところです。
スプリングをただ力で引っ張るのではない。
まっすぐ伸ばす。
できるだけ余分に揺らさない。
速度をコントロールする。
戻ってくるスプリングの力にも身体を持っていかれない。
そして、最後まで自分で戻す。
スプリングが身体を安定させてくれるのを待つのではなく、
自分自身が、スプリングとの関係を安定させていく。
そこには、かなり高度な身体のControlが必要になります。
だからクラシカルの器具は、慣れていない人にとって「やりにくい」と感じることがあるのだと思います。
でも私は、そのやりにくさを必ずしも悪いものだとは思いません。
器具が動きを消してくれないからこそ、
自分の力の入れ方、
方向、
速度、
左右差、
戻し方
が、そのまま返ってくる。
スプリングが一種のフィードバック装置のような役割をしてくれるのです。
「重いスプリング=難しい」でもない
もう一つ、スプリングを考えるときに忘れてはいけないことがあります。
強いスプリングが、必ずしも難しいわけではありません。
エクササイズによっては、強いスプリングが身体を支えてくれる。
逆に軽くすると、器具から得られるサポートが減り、自分自身で身体を支える必要が増えることがあります。
つまり、
スプリングはResistanceであると同時にAssistanceにもなる。
だから、
「何本つけるか」
「何色にするか」
だけを覚えるのではなく、
このエクササイズの、この瞬間に、このスプリングは身体に何をしているのか?
を考えることが大切だと思っています。
古くなったスプリングも、同じではないかもしれない
そして、使用年数も無視できません。
ただし、「古いスプリングは必ず弱くなる」と単純に言うことはできません。
疲労、変形、腐食、使用頻度などによって状態は変わりますが、それを見た目だけで判断することはできないからです。
Merrithewは安全性と性能維持のため、Reformerのスプリングを2年ごとに交換するよう推奨しています。
つまりメーカー側も、スプリングを永久に同じ性能を保つ部品とは扱っていません。
新品なのか。
何年使っているのか。
どのくらいの頻度で伸ばされているのか。
そういったことも、その器具の「feel」に関係してくる可能性があります。

「クラシカルだから裸の金属、コンテンポラリーだからメッキ」ではない
今回調べて、ここも大切だと思いました。
単純に、
クラシカル=無処理
コンテンポラリー=表面処理
と分類することはできません。
Contrologyのように、歴史的真正性のため意図的にunplatedにしているクラシカルスプリングがあります。一方で、クラシカルメーカーであるGratzにも防錆目的のニッケルメッキスプリングがあります。
だから大切なのは、
「クラシカルだからこう」
と決めつけることではなく、
目の前にある器具が、どう設計されているのかを見ること。
そして実際に自分の身体で感じること。
だと思います。

スプリングを伸ばすのではなく、スプリングをControlする
ピラティスでは、スプリングを伸ばすこと自体が目的ではありません。
たくさん伸ばせたから良いわけでも、
強いスプリングを使えたから上級者でもない。
伸ばしていくにつれて変化する力。
戻ってくる力。
ときには揺れ、ときには「びろろん」と音まで返してくるスプリング。
その変化する環境の中で、
自分の身体をどう組織するのか。
どこから動くのか。
どこへ向かうのか。
どんな速度で動くのか。
そして、最後まで自分自身でコントロールできるのか。
私は、そこにピラティスの大切な部分があると思っています。
スプリングを伸ばすのではなく、スプリングをControlする。
そして実際には、スプリングをコントロールしようとすることで、
自分自身をControlすることを学んでいる。
そんなふうに考えると、ピラティスの器具は単なるトレーニングマシンではなく、私たちに身体の使い方を教えてくれるものとして、また違って見えてくるのではないでしょうか。
まずは体験!














