「歳を重ねるということは、選ぶことなのかもしれない」

歳を重ねるというと、

体力が落ちる。
できないことが増える。
若い頃のようにはいかなくなる。

どうしても「失っていくこと」に目が向きやすいように思います。

確かに、それはあると思います。

20代の頃と同じように動けるわけではないし、
徹夜をして次の日も普通に仕事をする、なんてことも難しくなる。

記憶力や体力だけではなく、
残されている時間そのものも、若い頃とは違います。

でも最近、

歳を重ねるということは、本当に「失うこと」だけなのだろうか

と思うようになりました。

もしかすると、

何でもできると思っていた時代から、何をするのかを選ぶ時代に変わっていくこと

なのかもしれません。


心理学者Paul Baltesらが提唱した、生涯発達における
「選択・最適化・補償(Selection, Optimization, and Compensation:SOC)」という考え方があります。

人は年齢や環境の変化によって、使える時間、体力、能力などに限りが出てきます。

そこで、

まず、何に力を使うのかを選択する。

選んだものに、時間や努力を集中して最適化する。

そして、以前と同じ方法では難しくなった部分は、別の方法で補う。

この3つを使いながら、人は変化に適応していくという考え方です。

この理論を説明する時に、世界的なピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインの話がよく紹介されています。

年齢を重ねた彼は、若い頃とまったく同じように演奏しようとしたのではなく、

演奏する曲を絞り、
その曲をより練習し、
技術的に難しくなった部分では演奏方法を工夫した。

つまり、

できなくなったことだけを見るのではなく、

大切なものを選び、そこに力を集中した。

これは、とても興味深い考え方だと思います。


若い頃には、時間がたくさんあるように感じます。

仕事もしたい。
遊びたい。
いろいろな人と会いたい。
いろいろなところへ行きたい。
新しいことも知りたい。

「あれも、これも」ができる。

だから、広げていくことに価値があります。

でも、年齢を重ねてくると、

全部をやる必要があるのだろうか。

と思うようになります。

これは単に疲れたからではないようです。

Stanford大学のLaura Carstensenが提唱した「社会情動的選択性理論」では、人は自分に残された時間を有限だと感じるほど、将来のための情報収集や可能性を広げることより、今の自分にとって意味のある経験や人間関係を優先する傾向があるとされています。

大事なのは、これは単純に「高齢者だから」という話ではないことです。

Carstensenらの研究では、年齢そのものよりも、

「自分にはどのくらい時間があると思っているのか」

という時間の捉え方が、何を大切にするかに関係すると考えられています。


そう考えると、

最近の自分の変化にも少し納得できます。

以前なら、

できるならやっておこう。
誘われたなら行こう。
仕事が来たなら受けよう。
知っている人は多い方がいい。

そう思っていたこともありました。

でも今は、

本当にやりたい仕事なのか。

そこに自分の時間を使いたいのか。

その人との時間は、自分にとって大切なのか。

これは本当に私がやらなければならないことなのか。

そんなことを考えるようになりました。

若い頃よりできることが減ったから、ではなく、

自分の時間を何に使うかを、以前より考えるようになった

ということなのかもしれません。


ピラティスにも少し似ている気がします。

たくさん動けばいいわけではない。

たくさんのエクササイズができればいいわけでもない。

今、この身体に必要なのは何なのか。

何を優先するのか。

そこを観察して選ぶ。

すべてを一度に直そうとするよりも、

今一番必要なことを選んで、
そこに集中した方が身体が変わることがあります。

人生も同じなのかもしれません。

若い頃は、

「どれだけできるか」

を考えていた。

これからは、

「何をするのか」

を考える。

そして、もう一つ大切なのは、

「何をしないのか」も自分で決める。

ということなのだと思います。


時間は有限です。

体力も有限です。

お金も、
集中力も、
人と関われる時間も有限です。

だったら、

すべてに同じだけ力を使うことはできません。

何かを選べば、
何かを選ばないことになります。

若い頃は、それを「可能性を失うこと」のように感じていたかもしれません。

でも今は、

選ばないことは、失うことではなく、

本当に大切なものを残すための行為なのかもしれない

と思います。

歳を重ねることによって、
何でもできる自分ではなくなっていく。

でもその代わり、

何が大切なのか。

誰と過ごしたいのか。

どんな仕事をしたいのか。

何に自分の時間を使いたいのか。

そういうことが、少しずつ見えるようになる。

だとしたら、

歳を重ねるということは、

ただ失っていくことではなく、

余分なものを少しずつ手放して、自分に必要なものを選んでいくこと

なのかもしれません。

58歳。

まだまだやりたいことはあります。

新しいことも学びたいし、
仕事もしたい。
身体ももっと強くしたい。

だからこそ、

何でもやるのではなく、

「私は、これから何に自分の時間を使うのか」

を大切にしたい。

増やすことより、
選ぶこと。

頑張ることより、
どこに力を使うかを考えること。

それが、これから歳を重ねていく自分に必要なことなのかもしれない。

9月の終わりに、
そんなことを考えています。

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