「私にはピラティスがある」と思えた日

以前、仕事で出張したときのことです。
いつものようにホテルに泊まり、翌日の仕事に備えて眠ろうとしたのですが、その日のベッドが私の身体には少し硬く感じました。ギシギシと音も鳴り、動くことができません。
なかなか寝つけない。
何度か寝返りを打っても、いちいち音がギシギシとなり、なんとなく身体が落ち着かない。
出張先ですから、いつもと違う環境です。
今後の仕事のことも考えていたので、知らないうちに緊張もしていたのだと思います。
そして翌朝。
起き上がろうとしたとき、腰に痛みを感じました。
「あ……腰が痛い」
その瞬間、身体のこと以上に、頭の中にはいろいろなことが浮かびました。
「今日、仕事なのにどうしよう」
「ちゃんと動けるかな」
「このまま痛くなったら困るな」
腰が痛くなると、不思議なもので、それまで当たり前にしていた動作まで急に怖くなります。
立ち上がる。
歩く。
身体をかがめる。
荷物を持つ。
普段なら何も考えずにしていることなのに、一度痛みを感じると、「大丈夫かな」と身体をかばうようになります。
まして、私の仕事は身体を使う仕事です。
人に動きを伝えたり、実際に自分が動いて見せたりすることもあります。
その日の私にとって、腰が痛いということは、とても大きな不安でした。
「そうだ、動いてみよう」
そこで思ったのです。

「リフォーマーを使わせてもらえないだろうか」
色々、考えて、今後出張がまだ続くので、出張先の方にお願いして、仕事が始まる前に1時間ほどリフォーマーをお借りすることにしました。
誰かに教えてもらい、ニュートラルを見てもらおうと思ったのですが、急だったのでどなたも見てくださる人がいませんでした。
自分で自分の身体を感じながら、プログラムを作り、動いてみることにしました。
いつものトレーニングをそのまましたわけでもありません。
「今日は何が必要なんだろう」
まず、自分の身体に問いかけるように動き始めました。
腰だけを見るのではなく、
呼吸はどうだろう。
背中は動いているだろうか。
股関節はどうだろう。
どこか必要以上に力が入っていないだろうか。
身体全体を少しずつ確かめながら、そのときの自分に必要だと思うエクササイズを選びました。
大きく綺麗に動く必要もありません。
頑張る必要もありません。
痛みを我慢して動くこともしません。
呼吸をしながら、小さく、ゆっくりと。
自分の身体の反応を確かめながら、次の動きを選んでいきました。
すると少しずつ、身体の感覚が変わっていきました。
「あ、さっきより動きやすい」
「ここはもう少し動かしても大丈夫そう」
そんな小さな変化を感じながら、約1時間。
終わった頃には、驚くほど腰が楽になっていました。
正直、自分でも驚きました。
「こんなに変わるんだ……」
長い間ピラティスをしてきた私ですが、そのときは改めてピラティスの力を実感しました。

そして、もう一つ驚いたこと
ひとまず、その日の仕事は、無事に終えることができました。
そして夜。
泊まる場所も、ベッドも前の日と同じです。
「また明日の朝、痛くなったら嫌だな」
そんな気持ちがまったくなかったと言えば嘘になります。
ところが翌朝。
大丈夫だったのです。
前日のような腰の痛みはありませんでした。
もちろん、最初の腰の痛みがベッドだけのせいだったのかはわかりません。
出張による疲れや緊張、睡眠不足、いつもと違う環境など、いろいろなものが重なっていたのだと思います。
そして、すべての腰痛がピラティスで良くなるという話でもありません。
痛みの原因によっては、医療機関で診てもらう必要があります。
でも、少なくともこのときの私の身体には、「適切に動く」ということが、とても良い方向に働いたのだと思います。

そして私にとって、それ以上に大きかったのは、
「私にはピラティスがある」
と思えたことでした。
長く続けてきたことが、自分を助けてくれた
私は長い間、運動指導を仕事にしてきました。
ピラティスを学び始めてからも、たくさんのことを学び、実践し、そしてお客様の身体と向き合ってきました。
普段の私は、いつも人の身体のことを考えています。
「今日はどんな状態かな」
「前回と何が違うかな」
「この方には、今日は何が必要かな」
「このエクササイズより、こちらの方がいいかもしれない」
同じ方でも、身体は毎回同じではありません。
だから、その日の状態を見ながらプログラムを考えています。
でも、この日はそれを自分自身にしました。
自分の身体を観察して、
自分に必要なものを考えて、
自分でプログラムを選び、
そして動いてみる。
その結果、身体が変わっていった。
それは、私にとってとても大きな経験でした。
「ああ、ずっとやってきたことは間違っていなかったんだな」
そう思えました。
知識を持っていることだけではありません。
たくさんのエクササイズを知っていることでもありません。
身体を見て、そのとき必要なことを考え、適切な動きを選ぶ。
私がずっと大切にしてきたことが、自分自身を助けてくれたのです。
いつも人の身体ばかり見ていたけれど
そして、もう一つ気づいたことがあります。
私は仕事柄、どうしても人の身体のことばかり考えてしまいます。
お客様のこと。
スタジオ、スタッフのこと。
指導のこと。
プログラムのこと。家族のこと・・・
自分の身体のことは、ついつい後回しになっていました。
「私は動いているから大丈夫」
どこかで、そんな気持ちもあったのかもしれません。
でも、年齢を重ねると身体も少しずつ変わります。
以前なら一晩眠れば戻っていた疲れが残ったり、忙しさや緊張が続くと、思った以上に身体が固まっていたり。
自分では気づかないうちに、呼吸が浅くなっていることもあります。
身体の奥に入ってしまった緊張が、自分ではなかなか解けないこともあります。
だからこそ、
調子が悪くなってから身体を見るのではなく、普段から自分の身体に目を向けておく。
これはとても大切なことなのだと、改めて感じました。
ピラティスは「自分の身体を知る時間」
ピラティスというと、
「姿勢を良くするもの」
「身体を引き締めるもの」
「インナーマッスルを鍛えるもの」
そんなイメージを持っている方も多いと思います。
もちろん、それもピラティスの一面です。
でも、私はもっと大切なものがあると思っています。
それは、
自分の身体を知ること。
今日の呼吸はどうだろう。
今日は背中が動きにくいな。
右と左で少し違うな。
今日はここがいつもより緊張しているな。
そんな小さな変化に、自分自身が気づけるようになることです。
身体は、ある日突然悪くなるように感じることがあります。
でも実際には、その前から小さなサインを出していることもあります。
そのサインに少し早く気づくことができたら。
そして、自分の身体に合った方法で動くことができたら。
それは、身体への安心感につながっていくのではないでしょうか。
「何かあっても、私にはこれがある」
今回の経験で、私はピラティスへの信頼がさらに深くなりました。
それは、
「ピラティスをすれば何でも治る」
という意味ではありません。
そうではなく、
自分の身体と向き合う方法を、私は持っている。
という安心感です。
身体に何か起きたとき、
ただ怖がるのではなく、
「今、私の身体はどうなっているんだろう」
と考えることができる。
必要であれば休む。
必要であれば専門家に相談する。
そして、動いてよい状態なら、自分に必要な動きを選んで身体を整えていく。
そんな選択肢を持っていることは、これから年齢を重ねていく私にとって、とても心強いことだと思います。
そしてこれは、私だけではなく、スタジオに来てくださる皆さんにもお伝えしたいことです。
私が皆さんにお伝えしたいピラティス
スタジオに来てくださる目的は、人それぞれです。
姿勢を良くしたい。
腰や肩が気になる。
身体をもっと動かしやすくしたい。
年齢を重ねても元気でいたい。
運動不足を解消したい。
もちろん、その目的に向かって一緒に身体を整えていきます。
でも、その先にもう一つ、私が皆さんに持って帰っていただきたいものがあります。
それは、
「自分の身体は、自分で感じることができる」
という感覚です。
そして、
「何かあっても、自分の身体と向き合う方法を知っている」
という安心感です。
私自身、今回の出来事でそれを強く感じました。
身体が不安になると、心まで不安になります。
反対に、
「私は自分の身体を少しわかっている」
「こういうときには、こうしてみよう」
と思えるだけで、安心感は大きく変わります。
ピラティスは、単にエクササイズを覚えることではない。
自分の身体と付き合っていくための方法を、少しずつ身につけていくものでもある。
長くピラティスを続けてきた今、私はそんなふうに思っています。
あの日、出張先で腰が痛くなったときは、本当に困りました。
でも今振り返ると、とても大切なことを教えてくれた出来事でした。
長い間、人の身体のために使ってきたピラティスが、その日は私自身を助けてくれました。
「私にはピラティスがある」
そう思えたこと。
そして、
「これからも、このピラティスを大切に伝えていきたい」
と、改めて思えたこと。
これからはお客様の身体だけでなく、私自身の身体にも、もう少し丁寧に目を向けながら。
皆さんが年齢を重ねても、自分の身体を信頼し、安心して毎日を過ごしていけるようなピラティスを、これからもお伝えしていきたいと思っています。
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