【歩くだけで姿勢と体型が整う?──ピラティス第1世代カローラ・トリアによる“自動的エクササイズ”の知恵】

【歩くだけで姿勢と体型が整う?──ピラティス第1世代カローラ・トリアによる“自動的エクササイズ”の知恵】
■ 「歩く」を変えれば、身体が変わる
日々の「歩く」という当たり前の動作が、もしそのまま体を整えるエクササイズになるとしたら――。
それを可能にする身体操作の知恵を、ピラティス第1世代の伝説的ティーチャー、**カローラ・トリア(Carola Trier)**が示してくれました。
彼女の提案は、1963年4月15日発行の米国版『American Vogue』誌に掲載され、一般読者にも“歩きながら姿勢と体型を整える方法”として紹介されました。
この記事は、当時としても非常に斬新で、現在のボディワークやピラティスの指導においても、学ぶべき点が多く含まれています。
■ カローラ・トリアとは?
カローラ・トリアは、ジョセフ・H・ピラティス氏が最初にスタジオに迎えた女性クライアントであり、数少ない“エルダー”の一人です。
彼女はピラティス氏の直接指導のもとで身体を再教育され、その後、自らのスタジオを構え、特にバレエダンサーやリハビリ患者への的確なアプローチで評価を高めました。
その卓越した観察力と繊細な指導は、今なお多くのピラティス指導者たちに影響を与え続けています。
私自身も、彼女の言葉や動きから多くを学び、最も尊敬するエルダーの一人として、彼女の残した知恵を今も大切にしています。

■ 「姿勢」の常識を覆す、トリアの視点
「胸を張り、お尻を締める」という、かつての正しいとされてきた姿勢は、
実は不自然な緊張を生み、身体の動きと呼吸を妨げていることがあります。
トリアはそれに代わる方法として、骨格と筋肉、そして重力との調和を取り戻す姿勢・動作を提案しました。
そのアプローチは非常に実用的でありながら、奥深い身体の理解をもとにしています。
■ カローラ・トリアが提案した「5つの身体ポジション」
1. 下腹部と腰を“蛇腹の楽器”のように内側へ圧縮する
腰とお腹でアコーディオン(コンサーティーナ)を内側から押しつぶすように意識します。
この操作により、腹横筋・多裂筋・骨盤底筋・横隔膜といったインナーユニットが自然に活性化され、姿勢の芯が生まれます。
※ここでの重要なポイントは、「骨盤を下に丸めない(タックアンダーしない)」ことです。
2. 胸郭を“中に収める”──肋骨を開きすぎない
「胸を張る」のではなく、胸郭をやさしく重力方向に沈め、肋骨をニュートラルな位置に保ちます。
この姿勢が、腹圧と呼吸の最適なバランスをつくります。
3. 肩を耳に軽く引き上げ、後ろへ落とす
肩をふわりと耳の方へ持ち上げ、その後ストンと後ろへ落とします。
これにより、肩甲骨が背中の肋骨に柔らかく乗るようになり、肩周りの過緊張が解消されます。
4. 足の裏の接地を整える
足は平行にして、約6インチ(約15cm)の間隔で立ちます。
それぞれの足で、親指のつけ根(第一中足骨頭)と小指のつけ根(第五中足骨頭)に均等に体重を分散させます。
膝は軽く曲げ、脚全体に「しなり」が生まれるようにします。
5. 体重を前に送って“自然に歩き出す”
上記のポジションを整えたら、重心を前方(つま先側)に少し移すと、身体が自然と一歩踏み出したくなる感覚が訪れます。
この「意図しない歩き出し」は、全身の連動性と重力との協調によるものです。
■ この姿勢を習慣にすることで得られる効果
- 自然な腹圧と体幹の安定
- 肩や腰の慢性的な緊張の緩和
- 歩くたびにインナーマッスルが働くようになり、体型が引き締まる
- 姿勢が整い、疲れにくくなる
- 呼吸が深くなり、精神的にも落ち着く
まさに、「身体を整えるウォーキング」が日常に溶け込んでいくのです。

■ 最後に
カローラ・トリアが60年以上前に語ったこのメソッドは、いまの私たちにもなお通用するどころか、**むしろ現代人こそが取り戻すべき“身体の知恵”**であると感じます。
彼女の提案は、ピラティスの哲学そのものであり、身体を通じて生き方までも整える可能性を秘めています。
私自身が尊敬してやまないカローラ・トリアの言葉を、ぜひみなさんの日常の中でも実践してみてください。
きっと、歩くたびに体も心も整っていくのを感じられるはずです。
出典:
American Vogue, April 15, 1963.
“A new way to get a better figure out of every step you take: an exercise that can be an automatic part of walking.”
Contributed by Carola Trier(カローラ・トリア)
— Joseph Pilatesの第一世代弟子であり、著者が最も尊敬するピラティス・エルダーの一人。