ピラティスはゆっくり動くほど効果的?体幹の安定性と正しい身体の使い方を解説


ピラティスのレッスンで、「もっとゆっくり動いてください」と言われたことはありませんか?
マシンピラティスでもマットピラティスでも、動作をゆっくり行うことが大切だと説明されることがあります。
では、ピラティスはゆっくり動くほど効果が高くなるのでしょうか。
先日、海外のピラティス指導者が、ゆっくり動くことの重要性について投稿していました。
そこでは、ゆっくり動くことで勢いに頼らず筋肉を使えること、筋肉が働く時間が長くなること、身体のアライメントや代償動作に気づきやすくなることが説明されていました。
確かに、どれもピラティスの指導において意味のある考え方です。
しかし、長年ピラティスを指導してきた立場から、私はもう少し深く考える必要があると感じました。
ゆっくり動くことと、身体を正しくコントロールすることは、必ずしも同じではありません。
ピラティスで大切なのは、単に動作を遅くすることではなく、身体の各部分が協調し、必要な力や速度を適切に調整できるようになることだと考えています。
今回は、ピラティスの効果を考えるうえで重要な「モビリティ」「スタビリティ」「運動制御」「Whole Body」について、運動学の視点から解説します。
ピラティスでゆっくり動くことには、どんな効果があるのか?
ピラティスで動作速度を落とすことには、いくつかの利点があります。
まず、動作をゆっくり行うことで、加速や慣性の影響を小さくし、動きの途中で身体がどのように変化しているかを観察しやすくなる場合があります。
例えば、リフォーマーを使ったマシンピラティスのフットワーク。
キャリッジを勢いよく押し出して戻す場合と、速度を調整しながら動かす場合では、筋肉に求められる働き方が異なります。
特にスプリングの張力によってキャリッジが戻る局面では、戻る速度を適切に調整する必要があります。
また、ゆっくり動くことで、骨盤の位置や脊柱の動き、肩甲骨の状態などを確認しやすくなることもあります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
ゆっくり動けば、必ず筋肉への負荷が高くなり、ピラティスの効果が大きくなるわけではありません。
筋肉に必要な力は、負荷の大きさ、関節角度、動作速度、加速度など、さまざまな条件によって変わります。
速い動作では加速や減速のために大きな筋力が必要になることもありますし、遅い動作では筋肉が張力を発揮する時間が長くなることもあります。
つまり、動作速度によって身体に求められる働きが変化するのであって、遅い動作が常に優れているわけではないのです。

ゆっくり動きすぎると、身体を固めてしまうこともある
ピラティスでは、身体を安定させようとするあまり、必要以上に筋肉を緊張させてしまうことがあります。
例えば、背骨を丸めながら身体を動かすロールダウン。
本来は、脊柱や骨盤の動きを調整しながら、連続的に身体を動かしていくエクササイズです。
ところが、ゆっくり動こうとすることに意識が向きすぎると、腹筋や背筋を過剰に緊張させ、背骨の滑らかな動きを妨げてしまう場合があります。
運動学では、関節の周囲にある複数の筋肉が同時に働くことを「筋の同時収縮(Co-contraction)」といいます。
筋の同時収縮は関節の安定性を高めるために必要な働きですが、過剰になると関節の剛性が高まり、動きの自由度を制限する場合があります。
つまり、筋肉を強く働かせることが、必ずしも良い身体の使い方につながるわけではありません。
大切なのは、必要な筋肉が必要なだけ働き、動作の進行に合わせて、その働き方を変えられることです。
私は、ピラティスにおけるコントロールとは、身体を固めることではなく、動き続けながら、筋肉の出力を細かく調整できることだと考えています。
モビリティとスタビリティの違い|ピラティスで体幹を安定させる意味
ピラティスや身体機能の改善を考えるとき、モビリティ(Mobility)とスタビリティ(Stability)は重要な概念です。
モビリティは、身体や関節を目的に応じて動かす能力。
スタビリティは、身体に加わる力や動作の変化に対応し、姿勢や関節の状態を適切に保ち、調整する能力です。
この二つは、動くことと止めることという対立関係ではありません。
例えば、腕を持ち上げる動作では、肩関節だけでなく、肩甲骨や鎖骨、胸郭なども協調して働いています。
腕を動かす力が生まれる一方で、その動きを支え、必要な方向へ調整する働きも起こっています。
私は、モビリティによって生まれる動きにスタビリティが加わることで、必要なブレーキが働き、動作が安定するようなイメージを持っています。
ただし、スタビリティが高まると必ず速度が遅くなるわけではありません。
安定性の高い状態でも、速い動作を行うことは可能です。
重要なのは、必要な速度を生み出しながら、不必要な動きや速度の変化を抑えられることです。
つまり、ピラティスで体幹を安定させる目的は、身体を固定することではなく、目的とする動作を適切に行うための条件を整えることだと考えています。
身体のコントロールとは何か?運動制御(Motor Control)の考え方
ピラティスでは「コントロール」という言葉がよく使われます。
では、身体をコントロールするとは、具体的に何を意味するのでしょうか。
運動制御(Motor Control)とは、神経系と筋骨格系が協調し、目的のある姿勢や運動を成立させる過程です。
私たちが身体を動かすとき、筋肉は常に一定の力を発揮しているわけではありません。
関節の角度が変われば、必要な筋力も変化します。
動作を開始するとき、加速するとき、減速するとき、方向を変えるときにも、それぞれ異なる調整が求められます。
私は、この働きをドローンの制御に例えて考えることがあります。
ドローンは、複数のモーターの出力を細かく調整することで、移動方向や速度、機体の姿勢を制御しています。
前進するときも、方向転換するときも、空中で静止しているときも、状況に応じて出力を変えています。
人間の身体も、複数の筋肉や関節が相互に関係しながら、一つの動作を成立させています。
もちろん、人間の運動には感覚情報や反射、予測的な姿勢調整などが関与するため、ドローンと同じ仕組みではありません。
しかし、複数の要素の働きを調整しながら全体の動きを成立させるという点では、共通する部分があります。
身体のコントロールとは、筋肉を強く収縮させ続けることではなく、必要な力・方向・速度・タイミングを、その都度調整する能力ではないでしょうか。
このような能力を育てることが、ピラティスの大切な目的の一つだと考えています。

体幹の安定性とは、動かないことではない
「体幹を安定させましょう」
ピラティスのレッスンでよく使われる言葉です。
しかし、体幹の安定性を、腹筋に力を入れて身体を固めることだと理解してしまうと、本来必要な動きまで制限してしまう場合があります。
私たちの身体は、静止しているように見えるときも、姿勢を維持するための調整を行っています。
例えば、立っているだけでも小さな身体の揺れが生じ、それに対応する姿勢制御が働いています。
また、腕や脚を動かすときには、その動作によって生じる力に対応するため、体幹の筋活動も調整されます。
運動制御には、動作による影響を予測して準備するフィードフォワード制御と、感覚情報に応じて調整するフィードバック制御があります。
つまり、安定性は、動作が始まる前に完成するものではなく、動作の中でも継続的に調整されているのです。
ただし、すべての関節を常に動かし続ける必要があるという意味ではありません。
動作の目的によっては、特定の部分の動きを小さく保つことも必要です。
大切なのは、動かすべき部分と、動きを制御する部分が、目的に応じて適切に働くことです。
動くために安定し、安定しながら動く。
この関係を理解することが、ピラティスにおける身体の使い方を考えるうえで重要だと思います。
Whole Bodyとは?ピラティスで全身を使う本当の意味
ピラティスでは、身体全体を一つのつながりとして捉えるWhole Bodyという考え方が大切にされています。
ただし、全身を使うということは、すべての筋肉を同時に強く働かせることではありません。
人間の動作は、複数の関節や筋肉が協調することによって成立しています。
例えば、立った状態で腕を上げる場合、肩関節だけでなく、肩甲帯、胸郭、脊柱、骨盤、下肢なども、必要に応じて姿勢や運動の調整に関与します。
ある筋肉は大きな力を発揮し、別の筋肉は小さな力で姿勢を調整する。
動作が進むにつれて、それぞれの役割も変化していきます。
さらに、必要な筋活動を生み出すことと同時に、不必要な筋緊張を抑えることも重要です。
私は、Whole Bodyとは、全身の筋肉を一斉に使うことではなく、身体の各部分が必要な役割を果たし、互いに協調しながら、一つの目的のある動作を成立させることだと考えています。
そのためには、モビリティとスタビリティの両方が必要です。
そして、それらを目的に応じて調整する運動制御が関わっています。
マシンピラティスで身につけたいのは、動作を調整する能力
リフォーマーやキャデラック、チェアなどを使用するマシンピラティスでは、スプリングによる抵抗や補助を利用しながら、さまざまな動作を行います。
スプリングの張力は、キャリッジや身体の位置によって変化することがあります。
そのため、動作の進行に応じて、必要な筋活動を調整することが求められます。
例えば、リフォーマーのフットワークでは、脚を伸ばすことだけが目的ではありません。
股関節、膝関節、足関節の協調に加えて、骨盤や体幹がどのように働いているかを観察する必要があります。
同じエクササイズでも、スプリングの設定、動作速度、可動範囲を変えることで、身体に求められる働きは変化します。
だからこそ、マシンピラティスの指導では、エクササイズの形を再現することだけでなく、動作がどのように成立しているかを理解することが重要です。
また、動作が遅いことや、見た目に姿勢が整っていることだけで、筋肉の働きが適切であると判断することはできません。
身体の構造や運動経験、目的によっても、適切な動作は異なります。
指導者には、一人ひとりの身体を観察し、何を改善する必要があるのかを考え、適切な方法を選択することが求められます。
ピラティスの効果を高めるために大切な運動学習
運動学習(Motor Learning)の観点からも、動作速度は重要です。
初めて行うエクササイズでは、ゆっくり動くことで動作の順序や身体の位置関係を理解しやすくなる場合があります。
しかし、ゆっくり動けるようになったことが、そのままさまざまな状況で身体をコントロールできることを意味するわけではありません。
動作速度が変われば、必要な筋力やタイミング、関節間の協調も変わります。
そのため、運動の習熟に応じて、速度やリズム、負荷などを変化させることにも意味があります。
ピラティスには、ゆっくり正確に行うことが必要なエクササイズもあれば、連続性やリズムを大切にするエクササイズもあります。
重要なのは、どちらが正しいかではなく、そのエクササイズによって何を学びたいのかということです。
動作を理解するために速度を落とす。
必要に応じて速度を変え、異なる条件でも動作を調整できるようにする。
こうした経験を重ねることが、身体の使い方を学ぶことにつながると考えています。

まとめ|ピラティスで大切なのは、ゆっくり動くことよりも動きを調整すること
ピラティスでゆっくり動くことには、確かに意味があります。
勢いの影響を抑え、身体の状態を観察し、動作を確認するために有効な方法の一つです。
しかし、ゆっくり動くことそのものが、優れた身体のコントロールを意味するわけではありません。
身体をコントロールするためには、モビリティとスタビリティが協調し、必要な筋活動を適切なタイミングで調整する必要があります。
そして、その働きは一つの筋肉や関節だけで完結するものではなく、全身の協調によって成立しています。
私は、ピラティスにおけるコントロールとは、身体を固めることではなく、動き続けながら、必要な力・速度・方向・タイミングを調整できることだと考えています。
動作の目的に応じて、速くも遅くも動けること。
必要な部分を安定させながら、別の部分を自由に動かせること。
そして、身体全体が協調し、一つの動作を成立させられること。
こうした能力を育てることが、ピラティスの大切な価値の一つではないでしょうか。
大阪府豊中市のPilates removeでは、クラシカルピラティスとコンテンポラリーピラティスの両方の視点を大切にしながら、お一人おひとりの身体の状態や目的に合わせたマシンピラティスのパーソナルレッスンを行っています。
エクササイズを単にこなすのではなく、その動作を通して何を学び、身体の使い方をどのように変えていくのか。
これからも、運動の仕組みを理解し、身体を丁寧に観察しながら、指導の質を追求していきたいと思います。
Pilates remove|大阪府豊中市
本格的なマシンピラティス・パーソナルレッスン・ピラティスインストラクター養成
まずは体験!













