生涯を通じて「動き」の価値を届けるために

生涯を通じて「動き」の価値を届けるために──今、指導者に求められる視点とは
フィットネス業界で活動している多くのインストラクターやトレーナーは、「人の人生に寄与したい」「誰かの身体や心をより良い方向に導きたい」という強い思いを原点にしています。
実際、こうした仕事には大きな達成感とやりがいがあります。クライアントの姿勢が変わり、動きが軽やかになり、自信を取り戻していく過程に伴走できることは、他では得がたい価値です。
しかし、時間が経ち、キャリアが10年、20年と続いていく中で、誰もが一度は立ち止まり、考える瞬間が訪れます。
「この仕事を生涯続けていくにはどうしたらいいのだろうか?」
「もっと多くの人に価値を届けるには、今の働き方のままでよいのか?」
「自分自身の生活や将来の安定は、きちんと考えられているのか?」
こうした問いに正面から向き合うことが、これからの指導者には必要になってきています。

専門性だけでなく、キャリアと経済リテラシーを
指導の質を高める学びは、今も多くの場で提供されていますが、それだけでは持続可能な働き方には繋がりません。
むしろ、「一生懸命に現場に立っているのに、なぜか生活が安定しない」「体力的に限界が来ているのに、休むと収入がゼロになる」といった状況に直面する指導者も少なくないのが現実です。
だからこそ、今後のキャリア設計や、収入の多様化、ブランディング、教育活動への展開など、フィットネス指導者自身が“働き方”や“お金”についてのリテラシーを高めていく必要があります。
この変化は、決してビジネスに偏るという意味ではありません。
むしろ、「この仕事を続けたい」「より良い指導を届けたい」という気持ちを、長期的に実現していくための“現実的な基盤”を築くということです。

講義内容の変化が示す、学びの進化
実際、近年の講義内容も進化しています。
かつては、音楽の選び方やキューイング、演出の工夫によって「いかに楽しく、安全に、効果的に運動させるか」が主なテーマでした。これは、グループレッスンやエアロビクス全盛の時代背景とも合致しており、非常に重要なスキルでした。
しかし現在では、バイオメカニクスや機能解剖学に基づき、動きの構成や順序に“明確な根拠”を持って指導できる力が求められています。
「なぜこの順番で動かすのか」「この動作によって何が変わるのか」
「このクライアントにはなぜこの修正が必要なのか」
こういった問いに自信を持って答えられることが、信頼に繋がり、結果的に指導者としての価値を高めていきます。動作のデモンストレーションも、ただきれいに動けること以上に、目的や効果を正確に伝えられる力が評価される時代になりました。
このような背景から、研修会やセミナーでも専門的かつ実践的な内容が増えており、受講者の意識もより高くなっています。
指導者の価値を「持続可能な形」で社会に届けるために
今、改めて私が強く感じているのは、「人の健康や人生に貢献したい」という想いを持つ指導者が、自らの働き方と未来を守ることが、結果的により多くの人の役に立つということです。
質の高いフィットネスや運動指導は、社会にとって欠かせないものです。
その本質的な価値をつくっているのは、現場に立つ一人ひとりのインストラクターやトレーナーです。
だからこそ、その人たちが心身ともに健康で、自信を持って働き続けられる環境や仕組みが必要です。
「良い指導者が長く活躍できる社会」
「クライアントに本質的な価値を届けられる持続可能な仕組み」
こうした未来をつくっていくためにも、今、指導者自身が視野を広げ、学びを深め、現実的な課題にも向き合っていく必要があります。