ペド・オ・プルの歴史と魅力】

【ペド・オ・プルの歴史と魅力】
〜声と姿勢、そして“軸”を整えるためのピラティス器具〜
「ペド・オ・プル(Ped-O-Pul)」という名前を聞いたことはありますか?
ピラティスを学んでいる方でも、リフォーマーやキャデラックほどは知られていないかもしれません。ですがこの小さな器具には、ピラティスの核心的な考え方がぎゅっと詰まっているのです。

■ 有名オペラ歌手のために生まれた器具
ペド・オ・プルは、ジョセフ・ピラティスがアメリカのソプラノ歌手 ライス・スティーヴンスのために開発した器具です。彼女は舞台での歌唱に必要な肺活量を高め、発声の安定性を得るため、ピラティスのメソッドを取り入れていました。
ピラティスは、彼女のためにこの器具を考案し、ニューヨークの自宅にも設置して、日常的に使えるようにしたそうです。
このエピソードからも分かるように、ピラティスの器具は**“一人ひとりの課題に合わせて開発された”**という背景を持っていることが多く、ペド・オ・プルもその一例と言えるでしょう。

■ 声楽教師による応用と工夫
また、声楽教師であったウィリアム・ハーマンも、ペド・オ・プルを活用していました。彼は、ペド・オ・プルを使って歌手の姿勢を調整し、**身体全体で支える呼吸(アポッジョ)**を導き出すためのトレーニングに使っていたそうです。
ロバータ・ピーターズやエレイン・マルビンといった当時の著名な歌手たちも、彼の指導のもとでこの器具に取り組んでいた記録が残っています。
特筆すべきは、彼が通常1本のスプリングのところを、2本使っていたという点です。スプリングの抵抗を強めることで、より深く体幹とつながり、姿勢の保持力を高めていたのではないかと考えられます。

■ “Idealizer(理想をつくる道具)”と名付けられた理由
ピラティスはこの器具を「Idealizer(アイディアライザー)」と呼んでいたことが、当時の雑誌『Park East The Magazine of New York』(1952年5月号)に記されています。
その理由は以下のようなものでした:
- 小さなアパートの隅でも目立たずに設置できる
- 姿勢を整えながら、呼吸や全身の筋肉を効率的に鍛えられる
- 理想的な身体づかいを学べる
つまり、理想的な身体のあり方を導くための道具という意味で「Idealizer」と呼ばれていたのです。

■ 現代における価値と魅力
ペド・オ・プルは、他のピラティスマシンと比べてとてもシンプルです。垂直のポールにスプリングが取り付けられていて、バランスを取りながら動くことが求められます。
この不安定な状況の中で動くことで、自然と体幹が働き、姿勢が整っていくのです。特に以下のような点に優れています:
- 肩の安定性を高める
- 背骨の整列を意識づける
- 立位での重力との関係を感じながらコントロールを育てる
- 最小限の道具で最大限の効果を得られる
そのため、クラシカルピラティスでは現在もこの器具を大切に扱っており、ピラティスの本質を学ぶ上で外せない存在だと感じています。

■ ペド・オ・プルを体験してみませんか?
声を整えることから始まったこの器具は、今では身体の軸を育てるツールとして、さまざまな分野の人に支持されています。歌手やダンサー、一般の方まで、誰でも使えるけれど、深くて難しい。それがペド・オ・プルの魅力です。
クラシカルピラティスを学ぶなら、ぜひ一度は体験していただきたい器具のひとつです。
参考文献:
『The Pilates Ped-O-Pul: Exercises for Better Posture, Healthy Shoulders and Balance』
Kathy Corey & Reiner Grootenhuis 著
協力:Felicitas Ruthe & Murielle Pickard-Dellis